「中條がまだ手を出してないとか、まさかなぁ」
俺をどれだけ盛りのついたサルと思ってんだか――藤本の発言には、やっぱりなんだか頭痛もんだ。
「なに、なんか訳ありな感じなワケ?」
「ん? まあ、ワケありっちゃワケありになんのか」
「なんだよ、なんだよ?」
警戒していたとまではいかないが、軽くスルー出来たであろう話に、自然と口を開いてしまった我をほんの少し呪った。
「彼女、俺の後輩の妹っていうか、な」
「後輩って、大学のか?」
「いや、会社のな」
「はぁ? なんだ、それ? その後輩に紹介してもらったってことか?」
「んーまあ、なんつうか、ちょっと昔に知った顔で。偶然兄妹って知って、」
「なに、それで紹介してもらったのか?」
「その後輩にプライベートで用があって、その時に――ちょっとな」
当たり障りない程度に口を開きつつも、根掘り葉掘り聞き出そうという構えの藤本。
「お前って、相変わらず策士だなぁ」
策士なんて言われたら聞こえは悪いが、謀らなかったのかと問われれば――多少のそれは否めない。
だから、あえてその言葉には、無反応を決め込んだ。


