「別に、俺は美紗の親戚でもなんでもねぇけど、元従業員のこいつのことは、今でも心配してんだよな――男に弱いとこ見せたくねぇ女で、意地っ張りな女だけど。泣かさねぇでやってくれよな――それだけは頼むよ」
悪そうなおじさんは――思い切り甘い顔で、私を甘やかした。
普段は本当に悪そうなのに。
こんな時に、まさかそんなちょっと感動するようなことを、言ってもらえるなんて思ってなかったから、涙腺が急に緩んで。
私は泣く寸前――なんて事態に見舞われていたりした。
このマスターは、やっぱりどこか憎めなくて、やっぱり私は大好きだ。
私が苦手なのは、恋愛。
コンプレックス故の――それだから。
それを解っているから、きっとマスターは言ってくれたんだと思うけど。
私にエールを贈ってくれたようにも受け取れて。
頑張らないとだ――と、そういう力が胸底で湧いた。
やっぱり、ここで働いて良かった――って、そう思った。
それから、やっぱりここで働きたい――かも、とも思った。
中途半端な道を選んだ私を赦していない尚輝に、そんなことを言ったら、キレられるんだろうけど。


