彼は、理想の tall man~first season~


「別に、俺は美紗の親戚でもなんでもねぇけど、元従業員のこいつのことは、今でも心配してんだよな――男に弱いとこ見せたくねぇ女で、意地っ張りな女だけど。泣かさねぇでやってくれよな――それだけは頼むよ」


悪そうなおじさんは――思い切り甘い顔で、私を甘やかした。

普段は本当に悪そうなのに。

こんな時に、まさかそんなちょっと感動するようなことを、言ってもらえるなんて思ってなかったから、涙腺が急に緩んで。

私は泣く寸前――なんて事態に見舞われていたりした。


このマスターは、やっぱりどこか憎めなくて、やっぱり私は大好きだ。


私が苦手なのは、恋愛。

コンプレックス故の――それだから。

それを解っているから、きっとマスターは言ってくれたんだと思うけど。


私にエールを贈ってくれたようにも受け取れて。

頑張らないとだ――と、そういう力が胸底で湧いた。


やっぱり、ここで働いて良かった――って、そう思った。

それから、やっぱりここで働きたい――かも、とも思った。

中途半端な道を選んだ私を赦していない尚輝に、そんなことを言ったら、キレられるんだろうけど。