「うん、だって――」
「お前ぇは、ちゃんと確かめてから物言えよ」
マスターは少し怒ったようにそう言って、私を裏通路に引っ張り込んだ。
そこは、ホール側からはピアノや暗幕が死角になって見えないけれど。
こちらからは、その隙間から、ホールが見渡せたりする。
「いいか? 5卓に座ってる」
そして、マスターは、ご丁寧にも、座っている位置を教えてくれた。
からかわれていただけ――。
そうは言っても認めたくない。
気になるけど、見たくない。
私の中で、正反対の気持ちが交錯していた。
敦君を信じられるかって聞かれたら、まだそこまでの信頼関係も築けていない。
そうなれるように――という中での、こんな事態だ。
だけど、もうどうにでもなれって気分で、恐る恐る覗いてみると――。
薄暗い中でも、私にはちゃんと見えてしまった。
ホールのセンターテーブルに座っていた、尚輝と敦君の姿。
そして、敦君の隣には――遠目でもいい雰囲気に見える、綺麗な感じの女性が座っていた。
女性2人は、楽しそうに笑っていて。
座る位置も、敦君との親密さを物語る、そんな距離感。


