彼は、理想の tall man~first season~


こういう風に、感情を振り回されて、みじめになるのが嫌で。

もう恋愛なんて――って、懲りたはずなのに。

なのに、なんで繰り返してるんだろ。


「多分だけど、その背が高い男の人――私が彼氏だと思ってた人だと思う」

「――ハッ?」

マスターは意味分かんねぇ、みたいな表情をしていたけれど。

きっと私が、その背が高い男の彼女だということが、摩訶不思議とでも言いたいんだろう。

それは――べったり寄り付いていたらしい女の人の存在が、背の高い男の人の彼女に違いないくらいに見えたということだ。


別に――好きって言われた訳じゃないし。

付き合うって話も、ただ、からかわれていただけ。


胃がムカムカしつつも、少し胸が痛む。

けれど、それでもまだダメージは軽い方だ。

気持ちはまだ引き返せる所にある。

そう思っていた私は――

「人違いじゃねぇの?」

マスターの言葉に、思わず笑ってしまった。


「尚輝よりも背が高くて、マスターが見てもいい男だったら間違いないよ。やっぱり、私、からかわれてただけなんだよ」

「見てもいねぇのに、決め付けてんのか?」