こういう風に、感情を振り回されて、みじめになるのが嫌で。
もう恋愛なんて――って、懲りたはずなのに。
なのに、なんで繰り返してるんだろ。
「多分だけど、その背が高い男の人――私が彼氏だと思ってた人だと思う」
「――ハッ?」
マスターは意味分かんねぇ、みたいな表情をしていたけれど。
きっと私が、その背が高い男の彼女だということが、摩訶不思議とでも言いたいんだろう。
それは――べったり寄り付いていたらしい女の人の存在が、背の高い男の人の彼女に違いないくらいに見えたということだ。
別に――好きって言われた訳じゃないし。
付き合うって話も、ただ、からかわれていただけ。
胃がムカムカしつつも、少し胸が痛む。
けれど、それでもまだダメージは軽い方だ。
気持ちはまだ引き返せる所にある。
そう思っていた私は――
「人違いじゃねぇの?」
マスターの言葉に、思わず笑ってしまった。
「尚輝よりも背が高くて、マスターが見てもいい男だったら間違いないよ。やっぱり、私、からかわれてただけなんだよ」
「見てもいねぇのに、決め付けてんのか?」


