間違いなくマスターの仕業だと思ったけど、肩の力がスッと抜けて気分はいくらか楽になり。
目立たないよう深呼吸をして、私は曲を弾き始めた。
そして、1曲弾き終えると同時に、譜面が和君によってチェンジされ。
「2曲リクエスト入ったから、よろしく」
「嘘でしょ?」
「いやいや、大マジ」
楽しそうに私に耳打ちして、和君はその場から離れた。
次の曲に気持ちを切り替えて、譜面に目を通すと、智子がよくリクエストしていた曲で。
2曲と言っていたのに、私が奏君とその後交代出来たのは、4曲のリクエスト曲を弾いてからだった。
昔何度も弾いた事がある曲だとしても、久し振りに弾くというのは、なかなか精神的にも体力的にもキツく。
裏通路からカウンターに向かう私は、グッタリ状態。
「お疲れさま」
「本当、疲れた」
カウンターの端に座って、和君が笑いながらカクテルを出してくれて。
私は一気に飲み干した――。
「美紗っ!!」
だけどその直後、智子の声が聞こえて来た。
振り返ると、「来ちゃった」なんて言って笑っていて。
私はまさかの智子の来店に、驚かされていた。


