レッスンに来ていた奏君の、その母親に頼まれて、当時私は、奏君のお家まで出張レッスンに行っていた。
家というよりはお屋敷と言った方が正解な、広い部屋の中にあった、ファツィオリのグランドピアノ。
超がつくほど、お金持ちだった奏君の家。
当時の彼のピアノの音色を、懐かしく思い出していたのと同時に――彼の今の生活が心配になった。
あのご両親とは、どうなったんだろう?
私の5つ下で同じ誕生月。
当時はまだ高校生だったけど、年月の経過を考えると、成人の仲間入りはもう果たしている。
店奥の通路から顔を出すということは、ステージに上がって裏通路を抜け出るか、裏口から入って来るかしないと、まずあり得ない。
白いシャツを着ているということは、恐らく奏君はここで働いているんだろう。
マスターの言っていた、若くて顔良し腕良しというのは、奏君のことか。
「おぉ、奏来たか」
「おはようございます。お疲れさまです」
「もう入れるか?」
「はい」
「んじゃ、今の曲終わったら、マスターと交代して」
「はい」
奏君は、私をチラ見しながら、和君から指示を受けていた。


