あんな悪そうな顔してるのに、とても繊細で優しい音を出しちゃうマスターは、弾き手として尊敬してしまう。
表舞台に出ずに、夜の道で生きているのが不思議に思えてしまうくらいの、腕の持ち主だ。
大衆向けの心地のいい聴き慣れたクラシックを今は弾いているけれど。
マスターがそれこそ本気で迫力のある曲を弾けば、心はすっかり奪われる。
見た目と人柄――そのギャップが甚だしいから、マスターには詐欺師って言葉がピッタリで。
道を歩いていても、強面に見えるマスターが、こんな繊細な音を奏でるピアニストだなんて、誰も思わないだろう。
和君がさり気なく作って出してくれたカクテルに口付け――私は、マスターの音色にすっかり聴き入ってしまった。
ここ最近、少し沈んでいた気持ちが、ふわんとどこかに飛んでってくれそうな、そんな感覚。
ずーっと働いていたかった場所は、暫く振りに来ても、私にそう思わてくれる場所だった。
「お代わり、飲む?」
「うん、いただきます」
お酒も飲み放題だしなぁ、なんて考えていると、2組目お客さんがやって来た。


