彼は、理想の tall man~first season~


どうしようかと気持ちが少し焦り気味の時、曲の終わりに合わせて、和君がスッと楽譜を入れ替えてくれた。

これを弾けというマスターの指示なのだろう。

私は、お客様の会話の邪魔にならない程度に――ということに徹して、その曲を少し間を取ってから弾き始めた。


やっぱりピアノを弾くということは、とても楽しい。

自分の指で音を繋ぎ奏で――それが人の耳に心地よく届けられるかどうか。

間違わずに弾き終えた所で、マスターがやって来て、私はそっと席を立った。

交代だということが分かって、離席だ。


ピアノの脇から裏通路へ抜け、それがホール手前へ繋がっているので、そこからカウンターへ戻った。


「緊張した?」

「うん、久々過ぎて指が思うように動かないのに拍車かけて、緊張しちゃった。マスターに後で怒られそう」

「ハハッ、マスターが美紗の奴緊張し過ぎだろ、って言ってたよ」

「えー本当に? もう嫌だな」

和君から微妙な情報を聞いた所で、聴こえて来たのは、とても繊細に聴こえるピアノの音。