彼は、理想の tall man~first season~


リビングでコーヒーでも飲もうかといった心境で、キッチンに入り煙草に火を点け。

少し経った所で、彼女が「お借りします」と、伏し目がちにそう言って、脱衣所に向かって歩き出た。


やはりまだ恥ずかしいのか。

意外と、うぶなんだなと――そう思わさせる行動を、素直に可愛いと思った。


パタリとドアが閉まったと同時に、今がチャンスだと考えた俺は自室に向かい。

仕事机の引き出しの中から、久し振りに眼鏡という物を取り出し、一応それを掛けておくことにした。


この眼鏡は、昔視力が低下し始めた頃、なんとなくどうしようかと作ったメガネであり。

視力の低下とは戦わず、裸眼で生活を送っていた。

実の所コンタクトとは無縁で、視力は、今でもほどほどだ。


こんなことをしてしまうのは、彼女に本当に目が悪いんだという、更なる安心感を植え付けたかったからで。

こんなことで相手の安心感を推し量るなんてことは、今まで一度たりともなかったことだと。

自分自身の変化に気付かされていた。


意外とこういうのも新鮮だと思い、ある種あまり男に慣れていない彼女は――そういう部分でも、ありなんじゃ、という結論に達する。