「――――やかわ!おい早川!」
聞き覚えのある声がする。
「いつまで寝ている気だ。三時間目はとっくに始まっているぞ!」
三時間目、だと?
「ぃやっべぇっ!」
教卓に突っ伏していた虎次郎は弾かれたように飛び起き、慌てて教科書やら筒上のケースに入った世界地図やらを乱暴に掴むと、全速力で職員室を飛び出す。
そして廊下を疾走して行った。
「情けない。アレで本当に教員か」
「龍娘先生だって、ヒトの事言えないでしょ」
「なんだ鹿獄、言いたい事があるならはっきり言え」
「いや別に」
「……さっ最近ジロー君、寝不足らしいですよ」
「どこぞの生徒指導が彼に仕事を押し付けているからでは?」
「…………う゛ぅっ」
▽▽▽
「わりぃ遅れた!」
遅刻ぎりぎりの学生の如く勢い良くドアを開けて教室へ入って来た虎次郎に
「ジロー寝てたでしょぉ。顔に跡付いてるよ?」
最前列の女生徒が鏡を差し出す。
「ばっ馬鹿かてめぇは!べべべ別に寝てねぇし!寝てねぇし!ほら、さっさと授業始めっぞ。百ページ開けー」
真新しいチョークを手に取り、黒板の方を向き直る。
世界史や日本史は板書の量が多くて大変だ。
「ジロー、寝癖も付いてるー」
「ワカメみたーい」
「黙れ黙れ。これはパーマだ」
それでも、喧しい生徒達にからかわれつつ教科書を範読する彼は確かに
そう確かに、笑っていた。
【幻想曲・終】
救われてるんだ、誰もが此処で。

