衝動による突発的な行為などではなく、ずっと昔から奥底に悚然たる何かを孕んでいたのだ。






虎次郎はリボルバーを構えていた。

銃口が向くのは、彼のこめかみ。

握った銃は果たして本物か贋作か。



閉じていた瞼を上げ、虚ろな視線を眼前の鏡へ遣れば、硝子板の中では自分自身がこちらを見てせせら笑っていた。

男の生きてきた十五年を憐れむように。



(――――嗚呼、これで)



彼の体はカタカタ震えている。

リボルバーを持つ右手が小刻みに揺れ、上下の歯も音を立てぶつかる。

寒い。
とても寒い。



今朝ちらっと観た天気予報を思い出す。

確か今日は“この冬一番の冷え込み”なんだったか。



血も肉も、思考さえ凍り付く。

自らの脆さも一緒に消え失せれば良いのに。



震えながら吐いた息が、乾いた空気を一瞬だけ真白に染めた。

鍵の掛かった窓を容易く通り抜ける冷気。

硝子一枚に侵入を阻まれている北風が、男を混沌の内へ攫おうとしているように思われた。



寒さは徐々に痛みへ変わる。

肌を切るようなその痛みは、何千もの細い針で突き刺されているのではないかと錯覚させる程。



嗚呼それは正に、忍び寄る暗い影への恐れと狂喜。



(もう誰のことも、)






彼の節くれ立った長い指が引き金を緩慢に、しかし確実に引く――――