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「虎次郎ちゃん」



いきなり自分の名を呼ばれ、青年・虎次郎ははっと頭を上げた。

いつの間にか雨は上がっていたらしく、代わりに明るい光が天から降り注ぎ、辺りはきらきら輝いている。



「こんな所で寝てちゃ、風邪引くよぅ?さ、おいでおいで。あったかいミルクティーでもご馳走してあげようね」

喪服の女がいた筈の場所に立っていたのは、穏やかに微笑む初だった。



(夢、だったのか)

覚醒しきっていない状態で、虎次郎は考える。

(それにしては随分と――)



しかし。



「そうだこれ、虎次郎ちゃんのかい?」

漸く立ち上がった彼は、初が差し出した物に、一瞬呼吸を忘れた。



そうそれはまさしく、黒い傘。








【無明の闇・終】