▽▽▽
「虎次郎ちゃん」
いきなり自分の名を呼ばれ、青年・虎次郎ははっと頭を上げた。
いつの間にか雨は上がっていたらしく、代わりに明るい光が天から降り注ぎ、辺りはきらきら輝いている。
「こんな所で寝てちゃ、風邪引くよぅ?さ、おいでおいで。あったかいミルクティーでもご馳走してあげようね」
喪服の女がいた筈の場所に立っていたのは、穏やかに微笑む初だった。
(夢、だったのか)
覚醒しきっていない状態で、虎次郎は考える。
(それにしては随分と――)
しかし。
「そうだこれ、虎次郎ちゃんのかい?」
漸く立ち上がった彼は、初が差し出した物に、一瞬呼吸を忘れた。
そうそれはまさしく、黒い傘。
【無明の闇・終】