「そこの二人ぃ、みんなの迷惑になるから静かにしてなきゃ“メッ!”だぞッ」
上座にちょこんと座る小さな女の子・ラグナロクの一言に
「「す、すみません」」
二人はシュンとなる。
幼女の形の良い薄桃色の唇から発せられた声は、さながら天使の歌声のようだ。
自らの、艶のある栗色の巻き毛を触っているこの子供こそ、地区長その人なのである。
こんな幼い子が地区長というのはなんとも奇妙な話であるが、前述の通り、死神の見た目とキャリアはイコールではないのであって。
彼らにとっては何も不思議ではないのだ。
「お前のせいでオレまで地区長に叱られたじゃねぇか!この馬鹿」
「ハイハイ、責任転嫁は止めてね」
「ンだと!?オレより階級下のクセに生意気――」
尚もグラトニーと衣羅がコソコソ言い争いをしていると。
「遅くなって申し訳ありません」
いつの間にそこにいたのか
「やっとお出ましかよ、“雪兎”め」
――因幡舞白が、空間の隅に立っていた。
「ああーッ!シロちゃんってば遅刻だヨ!」
舞白に気付いたラグナロクは頬をぷうと膨らませて、彼女を力いっぱい指差す。
とても死を司る神とは思えない、愛らしい仕草であった。
「すみません、地区長」
恭しく頭を下げる“雪兎”。
「まぁいいや、座って座ってッ」
地区長に促され、舞白は優雅に、一つだけ空いた席に向かった。
一歩踏み出す度に、綺麗な薄灰色の髪が揺れる。
衣羅はラグナロクに見えないような角度で、“これだから地区長のお気に入りは”とでも言いたげな表情をした。
しかし彼女は特に気にする様子もなく彼の斜向かい、彼より上座寄りの椅子に腰掛けた。