ふと

肩に、背に、腕に、ぼんやりとした温もりが残っているのを感じた。



あの男は私を勇気付けるためと言ったけれど、その行為さえ私をがんじがらめにしている事など、きっと気付いていないのだろう。

罪深い男だ。

いや違う。
これは報いなのかもしれない。

彼から“あの人”を攫った、他でもないこの私への。



それでも

過去の哀しみや怒りに溺れまいと懸命にもがく彼は、滑稽で、しかしとても美しくて。






そんなつもりはなかったのに、自然と唇が撓むのがわかった。

笑顔を作るのはあまり好きではない。

だけど。

涙なんて許されないのだから。






叶うなら

どうか私を殺してくれないか、と。

願う私は、或いは“生きている”といえるのだろうか。








【その涙は何故・終】