ぼんやりと、ただぼんやりと。

彼は、始まってもいないその試合を眺めていた。



対峙する二人の少女。

一方は憑かれたように怯えながら、手にした銃を発砲し、もう一方は最初の一発を除く全ての銃弾を身の丈程もある大鎌で斬り落としながら、相手の元へと歩み寄る。

かわせなかった一発目は、少女・舞白の頬に、一筋の血を流させた。

死人のように蒼白い肌を伝う紅い血が、妙に痛々しく見えた。



「副会長」

不意に、試合が一番良く見えるVIP席に腰掛けている女生徒が、少年の方に視線を向けた。

“視線を向けた”と言うと語弊があるかもしれない。

というのも、一年生の頃から生徒会長として天神学園高等部を見事に纏め上げている彼女は、盲目なのだから。



「心配なのですか?彼女の事が」

薄く笑う生徒会長に、副会長と呼ばれた少年は思い切り眉を顰めた。

彼女に“表情を見る”事は出来なくても、“表情を感じ取る”事が出来るのを、彼は知っているから。

「何故ボクが、あの遅刻魔を心配しなければならないのですか」



「あら?私は“彼女”とは言いましたけれども、誰の事かは言っていませんよ?」

コロコロと笑みを湛える少女。

曇天をバックにしても、その美しさが損なわれたりはしない。