その日は珍しく、生徒会も風紀委員会も放課後の役員会議がなかったのだ。
風紀委員による学園の戸締まりも、今日は後輩の当番。
そういう訳で、ぞろぞろと家路につく生徒達の波に混じって、アルフレドは校舎を出る。
夕焼けに染め上げられた金髪が、鈍く輝きを放っていた。
夕陽が見られる時刻に帰れるのはいつぶりだろう。
文化祭、体育祭、修学旅行に生徒会長熱愛疑惑。
このところ、ずっと忙しかった。
いくつもの役職を兼任している彼が仕事を終えて寮に着く頃には、天はすっかり群青色に変わっているのだった。
だから今、彼が茜雲の浮かぶ空を懐かしく感じているのも全く不思議な事ではない。
「アリスカちゃんとあの眼鏡の、ホラ……」
「田中君ね」
「そう田中君。その二人、ヨリ戻したらしいよ」
ふと、後ろから、女子達のそんな会話が聞こえてきた。
そうか、復縁したのか。
言われてみれば、今日の会長と委員長は妙に機嫌が良さそうだった気がする。
そんな事を頭の隅で思いながら、アルフレドはぼんやりと歩を進める。
「良かったのに、あのままで」
ぽつり、呟いて、彼は空を睨んだ。
沈みゆく、憎らしい程綺麗な太陽は、それでも優しく、少年を照らし続ける。
足りないのだ、茜色などでは。
真紅よりもっと、ずっと深く淀んだ赤で、その濁った身ごと、全て燃やしてくれないと。
【赤か沈む・終】