「無理はしないでよ。」


「大丈夫。」


「…じゃないから言ってるのに。」



最後に小さく呟かれた言葉は、私の耳には届くことがなかった。



終了のチャイムが鳴り、教室に戻るため廊下を進む。



「今日のお昼は何?」


「…忘れた。」



こんなどうでもいい会話は水亜なりの気遣い。


こういうことをしてもらう度、感謝の気持ちが生まれると共に苦しくなる。


また迷惑をかけている、と。


人を観察する癖自体、別に気にしているわけではないと何度も言っているのに、水亜はあのことそのものを気にしている私をわかっているのだ。


私はもう少し、いやもっともっと強くならなければいけないのかもしれない。


ギュッと、爪が食い込むほど両手を握り締めた。



だが、この決心は崩れ去ることになる。


そしてあの時水亜に相談しなかったことを、後悔するはめになる。


そんなことがこの時の私にはわかるはずもなかった。