君を忘れない。




「それは言えてる。雨竜の男前は、寡黙な所にもあるんだろう。」



先生は、納得したようにうなずいた。



「…あ。ところで朝宮(あさみや)の荷物なんだけど。」

「あ、はい!」



そうだ。



それをとりに来たんだ。



「これ…」



先生の見つめた先を追って見ると、



「え…こんなに?!」



本や資料らしき紙の束、ちょっとした生活用品まで、机の上に山積みになっている。



「思わず言葉を失うよねぇ。」



先生はのんきに呟いた。



少し…いや、とてつもなく予想外な量だ。



さすがはお兄ちゃん。



「喜代ちゃん一人じゃ、とてもじゃないけど一度に全部を運ぶのは無理だね。」

「そのようですね…」



何往復もするしかない。



「僕も今から講義で、行かなきゃいけないんだ。手伝えなくてごめんね。」

「いえ、謝らないで下さい。このような事で先生のお手を、煩わせるわけにはいきません。」



私がそう言い切ると、先生はそれでも何度も謝りながら研究室を出ていった。