君を忘れない。




それから、兄が学んでいた教室まで案内してもらった所で、彼は「それじゃ。」と一言、去っていった。



「雨竜が女の子を連れてくるから、何事かと思ったよ。」



そう言ったのは、兄のいた研究室の若い先生。



うりゅう…?



「あぁ、さっきの無愛想な男の名前だよ。」



首をかしげた私に、その先生はクスクス笑いながら教えてくれた。



「とても、親切で優しい方です。」

「アイツの事をそんな風に言う人を、僕は知らないよ。」

「何故ですか?」

「見ての通り、あの仏頂面だし、人付き合いなんてしてるのを、見たこともないからね。」



なるほど。


口数は少ないし、笑った顔はまだ見たこともない。



「あんな男前のくせに、実にもったいない。僕があの顔だったら、両手に女の子を侍らせちゃうよ。」



先生の冗談を交えた話しで、私は終始笑っていた。



こんな風に、先生と一緒に勉強していたのかと思うと、ますますお兄ちゃんが羨ましく思えた。



「遊んでばかりいると、鼻の下が伸びてしまって、せっかくの男前が台無しになってしまいます。」



私も先生に、軽口で応える。