シンクロニシティー

「父のこと……ですか?」

わざとそんな風に聞き返せば、目を伏せ困ったように苦笑して、彼女は小さく首を横に振った。


「いいえ、お母様も、お元気?」


「シュウは、あなたと父の子なんでしょう? 父はあなたのことを愛していたって言ってました。あなたも? あなたも父のこと……」


途端、彼女が驚いたように目を見張る。けれどすぐ、ふっと表情を緩めると、柔らかく微笑んだ。



「ええ。今でも愛してる」


彼女は濁すことなくはっきりと言い切った。そうして、更に言葉を繋げる。



「秀也を身籠った時、あの人はまだ高校生だった。私が働いている居酒屋でアルバイトをしていて。自然に惹かれ合って、私たちは恋人同士になった。

でも妊娠を知った時、どうしても言い出せなかったの。でもどうしても生みたかった。だからあの人に、一方的にお別れを言って逃げるように去った。

そうするしかなかったの。あの頃の私には――

あの人の将来を奪う勇気も、度胸もなかったから」


「それは本当に、勇気とか度胸なんですか?」


自分が何を思ってこんなことを言っているのか、良くわからない。けれど、無意識に口からこぼれ出た問いだった。