静寂という名の騒音が幸大の耳から消える。


姫野の思いを乗せた言葉…

それはまるで触れただけで壊れそうなガラス細工を遠巻きから眼を輝かせて覗いていた少女がガラス細工に触るどころか…叩き壊すかのように全力で…渾身の力で…砕こうとする様だった。


ガラス細工に閉じ込められたとても小さなビーズを取り出すために…


それでもビーズは転がり少女はまた触れることができない。


「俺は…男としては最低だからな。

誰か1人を選ぶこともできない…


いや、選ばないし選びたくない。

だからお前らを傷つけて…」

「違う!!

幸大が最低なのは私たちに触れないから!!

あんたが何人もの女に手を出す甲斐性なしで…

私たちが困ってたら無責任に助けて…

めんどくさがりで…

チキンでヘタレで…

それから鈍感で…馬鹿で…適当で…


とにかく、幸大の悪口とか文句なんかあげたらキリがないけど…



それでも…

それでも…私は…

違う…

私だけじゃない…

クーニャも咲子も先生もマリアも沙羅も…

幸大が好きだから…」

「姫野…」

「なのに…幸大は私たちに踏み込もうとしない!!」

「…。」


「心に触れる覚悟が…

心に踏み込む覚悟が無いなら!!

私たちを好きだなんて言わないでよ!!」

姫野の眼は怒りでも悲しみでもなく…救いや希望、願いを祈るような…そんな眼をしていた。