彼女が少しでも俺のことを知ろうとしてくれたことがすごく嬉しかった。
「人、多いねぇ」
「だな」
もっと気のきいた言葉を言えればいいのに、俺は何も思い付かない。
何か探せ、話題を。
短い時間だ、彼女のことを少しでも多く知っておきたい。
「あ、」
「どうしたの?」
俺は自分が思いついた考えに驚いてしまった。
「……アドレス、とか聞いてもいい?……あ、嫌ならいいけど」
「いいよ」
「へ?」
「いいよ」
すぐに返ってきた答えに驚き、間抜けな声を出してしまった。
「はい、赤外線」
いつの間にか彼女は携帯を出している。
俺は急いで自分の携帯を出した。
「あ、ありがとう」
「こちらこそ」
アドレス帳に新しく入った“中川葵”という見知らぬ名前。
――これが彼女の名前
「葵ちゃんっていうんだね」
「うん、あなたは亮平くんっていうんだね」
「あ、うん」
俺は彼女に名前を呼ばれたことにひたすら照れていた。



