「これ、落としたのって確か1週間以上前でしたよね?今まで……?」
「あ、すいません、キモいかもしんないけど、大事なものだったら困るし……」
挙動不審。
今の俺にぴったりの言葉だ。
「もしかして、毎日これを渡すために?」
この電車、この車両に乗ってたの?
彼女の言葉にはそんな意味がこめられているのだろうか。
「あ、いや、その、手がかりがここしかなくて……」
すがるような気持ちでこの車両に乗ってた、とは言えない。
「……本当に、ありがとうございます」
「あ、いえ」
言えた。
ちゃんと渡せた。
もう大丈夫。
俺はこれで満足。
満足なはずなんだ。
なのに、俺は“もっと”を望んだ。



