「あのっ!」


すでに電車はかなり減速している。


今からじゃ、遅いかもしれない。けど……


「よかったら、アドレス、教えて……ください」


席を立とうとしていた彼女は驚いた顔をした。


でもそれは一瞬で、


「いいですよ……って言っても今からじゃ扉閉まっちゃう」


俺の馬鹿!


なんでもっと早く聞かなかったんだよ!


でも彼女は言葉を続けた。


「あたし、明日図書館行くんです。そこでいいですか?」


今度は俺が驚いた。


「え?」


「よく図書館で見かけるから……」


「あ、はい、じゃ明日図書館で」


「はい」


そう言って彼女は電車を降りていった。






――俺だけじゃなかった



俺が一方的に彼女を知っているだけだと思っていた。


でも、彼女も俺のことを知っていてくれていた。


それがわかって、俺は1人電車の中で顔を赤くした。


――知っていてくれてた



明日、あわよくば彼女とアドレスを交換した後、食事にでも誘おう。


俺はそう決意した。




END