「ご配慮ありがとうございます」
ハルがひざまずいて礼をした。キヨが鼻をすすっている。きっと、あたしの心の声が聞こえたのだろう。
「さあ、お茶がひと段落したら、刺繍を皆でしましょう」
ランが反物を片づけてから、刺繍の材料を持ってくる。
あたしは、白いハンカチーフと色とりどりの刺繍糸。木の丸い枠にハンカチを挟んで、小さな花を幾つか刺繍していく。
花の刺繍のしかたは、ランが丁寧に手ほどきをしてくれた。
ランが同じような図面で針を進めていく。その素早さと正確さ、次々と白いハンカチに浮き出てくる花の模様に、うっとりしてしまう。
「日々、やっていることですので。慣れですよ」
あたしがノロノロと2つ目の花の刺繍にとりかかったとき、ランの花の刺繍は出来上がり、小花が隅にちりばめられたハンカチーフが出来上がった。
一向に進まないあたしの作品とは全然違う。ようやく刺繍した花が、ハンカチーフにイタズラして針をさしたように見える。
「また、いたしましょうね」
ランがあたしとランのハンカチーフを小さな木の箱に入れて蓋をした。
また、か……。またこの大奥に、選ばれて来ることは出来るのかな。
木の箱を眺めていたら、後ろからキヨが肩に手を載せた。
『来られるさ、また』


