ツンツンと引っ張ってくるの、痛いんですけど……。
あたしが後ろを振り返ると、満面の笑みで四角い顎が丸みを帯びている。
「髪が指に絡まってしまいました……」
「絡めた」の間違いでしょ? 咎めるあたしの瞳をものともせず、
「控えの間にて髪型をセットし直しましょう」
レイは広間のドアに向かって歩いていく。
絡めとられた髪もそのままに、あたしも駆けていくしかない。
「お待ちください」
キヨは、すばやくあたしを追いかけて、皿の骨付きチキンを手に取ってドレスに指をこすりつけた。チキンを持ったため、指にはベッタリと油脂がついていて、ドレスに油染みが付く。
「ああ、ドレスにシミをつけてしまいました……上様、共に控室に参りましょう」
「キヨ。お前は必要ない。わたしが本日の上臈御年寄だ。大奥の代表なのだ」
あわわ、あたしを間にして争わないで。


