「上様は、おどおどされて、ご自身の意思を表されない方なので」
物は言いよう、だ。都合のいいように事を運ぶのに長けているのね。
あたし、『キヨを助けて』と懇願(コンガン)したし、
キヨの食事の心配もしていたでしょう?
キヨを心配しているあたしの様子を散々見てきたくせに、
ひねくれた言い方で、無視したことを弁解するなんて。
あたしの怒りにレイは微笑みながら、ようやくキヨのことを教えてくれる。
「……わかりました、清(キヨ)はすでに別室にて食事を済ましているようですので、こちらに呼びましょう」
ああ、キヨも、食事をとることができたんだ。あたしは安堵(アンド)する。
それならそうとすぐに言ってくれればいいのに、意地悪なんだから。
でも今なら、ひねくれたレイを捨てて、「上臈御年寄の変更」を希望すればいいのに、あたし……、
なぜかこの、意地悪な微笑みに、ねじ伏せられてしまう。
あたしを冷たい言葉で翻弄(ホンロウ)しておきながら、
レイは、あたしとの間に出来た距離を楽しむかのように踏み込んでくるんだ。
「そんなにキヨがよろしいのですか? 悔しいです……上様」
しかも殊勝(シュショウ)なことを言って、あたしの前にひざまずく。
レイのグレーの短い髪が、ふわりとあたしの膝くらいまで下げられた。
泣いてたりは、してないよね?


