「皆があなたを広間でお待ちなのですよ? 姫様。それにこれから、ドレスに着替えて、靴を履いていただかないといけません」
厳しく咎(トガ)めるレイの表情が、あたしの顔に近づく。
あたしは目をつぶった。怖くて……その耳元に低いバリトンの声。
「挨拶をして、上様であることを表明してから、解放を命じなさいませ」
今、なんて……?
驚いて瞳を開けると、あたしの足元にひざまずくレイの姿があった。
もしかして、アドバイスしてくれたの?
「無理をおっしゃらず、広間へいらしてください」
レイは厳しい感情のない声に戻っている。
先ほどささやいた声とは全く違う。
あたしの近くには、今、御年寄と御小姓が1人ずつ。手薄だ。
周囲の他の者に聞こえないように、教えてくれたの?
「参りましょう」


