「わたくしの名は、令(レイ)と申しますので、本日一日よろしくお願いします」
笑みの後に、レイと名乗る男性は踵を返す。
「では姫様、上様として挨拶するために広間へ行きましょう」
縛られたままの体勢で、キヨが呻く。
『行ったほうがいい。俺は……』
キヨの声が頭に響く。
どんな思惑がキヨにあったにせよ、あたしは見捨てることは出来ない。
先に立って広間へ行こうとするレイを追いかけて、その前に立ち塞がる。
「何をなさっていらっしゃるのか」
レイは、冷静にあたしの隣の空間へとその歩みを進める。それでも、あたしは、どかなかった。彼の前に立ち塞がり、手を横に広げる。
「行かさないわ。キヨを解放して」
「それは命令であろうとも、出来ません」
「あたしが決めることでしょ!?」
「姫様は、この大奥の秩序を狂わされるおつもりか」
睨まれても、くじけない。あたしは、上様。
「足が震えていますよ」
侮蔑するように、あたしを見ている、こんな冷たい上臈御年寄に負けたくない……。


