縛られていた腕には赤く紐の跡がついている。
縛られていた罪人が、一転して「上様」だなんて。
あ。そうだ、上様になったのであれば、命令が出来るはず。
あたしの紐をほどいた者に、キヨを許すように命令をする。
「それは……出来かねます」
上様の命令よ?
「現状では、この者は牢屋送りを免れません」
冷やかな瞳を伏せて、頭を下げるこの男性に、あたしはお願いする。
「キヨをあたしの上臈御年寄にしてちょうだい」
そう。これは、キヨと約束をした事だから。
あたしが大奥に来ることが出来たら、キヨを御年寄以上に任命する事。
男は薄い唇を横に広げ、皮肉な笑みを浮かべた。
「本日の上臈御年寄は、わたくしなのですが」
自ら役を降りろというのですか、と言う男の馬鹿にしたような微笑みに、
あたしは屈服せざるをえない。
「姫様が上様と決まられる前に、わたくしは昨日から上臈御年寄であります」
勝ち誇るように笑った彼の唇から白い歯がこぼれる。
薄気味悪い笑み。


