「そのようなわけには、参りません」
い、今。この青年、あたしの心の声が聞こえた?
「申し訳ありません。わたくしには特殊な才能がございまして」
特殊な才能…読唇術とか?
「いいえ、唇の動きを読むのではなく、心のなかの声が分かるのです」
なに言っているんだろう。
ここは何処で、この青年は一体、誰なの?
「失礼いたしました」
青年は、あたしの心の声を的確にとらえる。
桜の花びらのような唇を静かに開いて、あたしの疑問に答えた。
「姫様、ここは大奥でございます。そして、申し遅れました。わたくしは、
清(キヨ)と申します」


