どきどきしながら、男性が鮮魚コーナーの陳列台を眺めるのを待つ。
そういう時間って、ちょっとスリリングで、甘い気持ちになる。
ブリやハマチ、イカ、タコと一緒に、
あ、ミナミのおばちゃんも一緒に、彼を待っている、あたし。
たぶん、彼にとっては「売り場の女性1」みたいな存在なんだろう。
でも、いいの。
姿を見るだけで、幸せ。いつも来てくれるのが、幸せ。
そして、今日も彼はゆっくりと鮮魚コーナーに近づいてくる。
そのとき。
「ちょっと、あなた、これ色が悪くない?」
横からあたしと彼との間に入ってきた客。
あーーーーー!! あたしと彼との間に、入るな!!!
なんて言えるわけなく、あたしは従業員として対応する。
「こちらの商品は……」
ああ。あたしの平安の時を返せ!


