ハルの瞳は哀しげに潤んでいる。
小さく頷くその頭の白髪が
きらりと光って、あたしはやるせなくなる。
「表使としても、
ハルは有能ですからな、仕事人間になったのでしょうな」
しわがれた声の持ち主を睨み付けてから、
あたしは、ハルに命じた。
「よく分かったから、
……下がりなさい」
ハルを一方的に責める立場に、あたしはいない。
なぜなら、あたし自身も、
この大奥の豊かさに感動し、
そしてここに居続けたいと思う事が多いから。
その欲が最初の頃よりも、
表の世界の数日のうちに膨れ上がり、
あたしだって、
また大奥に迎え入れられる事を
願ってきたのだから。
ハルは、その欲望のうちに、愛する人を失い、
表の世界での
心が休まる場所を失ってしまったのだ。
あたしだって、何時そうなっても、
おかしくない。


