「ハル、ひとつ訊いていい?」
「はい」
あたしはハルのすぐ傍にしゃがみ込んだ。
もっとハルの瞳を見るためだ。
この潤んだ瞳は嘘ではないと信じたいから。
「そんなにも大事な奥様だったならば、
ハルが大奥を出て、
また一緒に表の世界で暮らせばよかったのに。
そうは思わなかったの?」
ふふふ。
ハルはひきつった笑みを浮かべた。
「わたくしの欲が愛を上回ったのですよ」
欲?
「大奥に居れば、何不自由なく暮らせます。
表の世界と比べれば、
物の豊かさは雲泥の差です」
「そのとおり」
リツもこれについてはハルに同意する。
「大奥に召喚されたばかりのわたくしは、
ろくな稼ぎのない貧乏青年でしたから、
ここは……夢のように楽な暮らしを保障してくれる、
場所に思いました」
この大奥に居る限り、
あたしたちは物質的に豊かで不自由なく、
穏やかでいられる。
「豊かさに目が眩んだというの?」


