「ハルに想い人がいるの?」
「いたのですよ。……どのくらい前になるか、
よく分かりませんが」
「上様として、大奥に来たの?」
女性がここへ来るには、それしかない。
もしくは、『ゴザイ』とか?
その案をあたしに示したのは、ハルだった……。
「上様として繰り返し来ていたのだったか……はて、
その後、はたっと来なくなられた」
感慨深げなリツ。
ハルが画策して大奥へ入れていて、
それが大奥の責任者にばれたとか?
あたしの視線にレイが首を振る。
誰か。だれか、知らない?
「どうせハルの根性の悪さに愛想つかして
来たくなくなったんだろ」
わざわざ声に出して言うんじゃない、キヨ。
ふと思いついて、皆の前で言ってみた。
「たとえば、大奥で怪我をしたとか、
事故があって、その傷が原因で、
大奥に来られなくなった……とか」
「来られなくなったとは?」
レイが尋ねる。
「大奥に来たら傷が悪化していって……」
その続きをあたしは言えなかった。
キヨとリツには悟られたかもしれないけど、
病や傷の種類によっては、命取りになる。


