「あなたがここに居ようといまいと、
傷は大奥で出来た、ですから大奥で直しきらないと
大奥に再び来た場合は悪化するのです」
そんなぁ……、しっかり治すといっても、
あたしにはそんな時間がないのだもの。
傷を治すほど長く、大奥には居られないんだもの。
頬をふくらませるあたしに、
「大奥で怪我をしてから表世界に戻り、
再びまた大奥にいらっしゃる、
そんな上様は今まで皆無でしたな」
リツが遠い目をして言う。
「ああ、しかし……皆無ではなかったかもしれん」
どちらですか?
ご老体だから忘れっぽいのだろうか。
「忘れたい事もあるのです。
上様の考えることは大変わかりやすくてよい」
他の誰かも言っていた気が……。
「そうだった!」
ポンと膝を叩いて、痛がるリツ。
「ハルの想い人が、幾度か大奥へいらした女性でしたな」
想い人???
初めて聞いた。


