キヨは本当に驚いた様子だった。
「大奥に初めて来たとはいえ、こんな無心で喜ばれる方はめずらしい。面白い方ですね」
あたしは鮮魚コーナーの一店員ですから。
普段はスーパーで魚のパックを並べたり、買い物客に勧めたりするのが仕事。
こんな綺麗な場所は場違いだもん。
「そうですか……魚屋さんで働かれているのですね」
しまった、また心の中のつぶやきを読まれてしまった。
スコーンをほおばる。ジャムは木苺のジャムとオレンジのジャム。どれも、まだ果物の粒が残っているので、ジューシーだ。
おいしそうに、ほおばるあたしを面白そうに眺めて、キヨは提案した。
「上様を、『あや姫』とお呼びしてよろしいでしょうか」
「どうぞ」
即決。
ほんとは上様を名前で呼ぶなんて、御法度(ゴハット)なんだろうけど。
あたしにはこだわりがないもん。
こんな場所で一日過ごせるなんて、天国にいるようなもんよ。
呼び名なんて何でもどうぞ。


