イケメン大奥



「お前は骨が細いようだから、きちんと食事をとり休み、働け。あと暫くは手首を濡らさないように注意しろ」

「はい……」


医師はいぶかしげな視線を送ってきたが、それ以上は何も言わなかった。


あたしは深々と礼をして医務室を出た。冷たい廊下を拭き掃除している者がいる。その者の邪魔にならないように歩いて持ち場に戻りながら、


医師の言った言葉を思い出す。


今は働くしかない。待って上様となる時を待つしかない。
そして、上様となった暁には、


あたしには調べたいことがあった。

食事時に聞いた大奥の噂。
『大奥とリアルを行き交うと身体によくない』という気になる噂。

そして大奥に戻ってきた途端、手首の傷が現れて悪化した事について、


上様となれば、何かしら調べることが出来るかもしれない。


モップを手に、力が入らないながら床を拭く。

こういうとき、マサに気に入られていることが助けとなった。仕事が遅い事を叱られずに済み、あたしはまた食事の時間を迎える。

下々は労働と食事、休息を繰り返し、
大奥で過ごしているのだ。


長机にトレイが並ぶ。コーンスープ、ローストビーフ、ほうれん草のお浸し、ジャガイモのバター炒め、ご飯。そして、この食事には特別に上から拝領したという、ふかひれの姿煮がついていた。



「上から拝領したものは、かなり旨いぞ」


量は少ないけれども、皆、喜んで姿煮を食べている。


リアルの世界に居たら、美肌つくりに良いふかひれを無邪気に喜んで食べられたと思う。

でも今のあたしには、余裕がない。噂の真相が気になるからだ。