申し訳なさそうに俯く。その姿に、男は溜息をついた。
「傷跡? 見せてみろ」
おずおずとあたしは手首を差し出す。赤くただれてきた紐の跡。
「おい」
男は手首を裏返したり回して見ながら、問う。
「この傷、ずいぶん時間がたってるんじゃないのか。化膿しそうになってるぞ」
傷を負ったのは2日くらい前だろうか。
随分というか、手当てをしてもらってから、リアルな世界に戻ったら綺麗に何事もなく治って。それから大奥に再び来たらこうなりました、とはとても言えない。
「あちらの世界から来たばかりか。罪人か?」
マサと同じことを言われる。頭を振ると、医師が明るい声で手当てをしながら言ってくれる。
「ま、ここに来れて良かったんじゃないか。ここに居て仕事をしていれば、食事や生活の事は保障される」
あたしは、また泣きそうになった……。
黙って消毒をして、包帯が巻かれるのを見ているだけ。消毒液は浸みたけど、泣くほどの痛みではない。なのに、涙がこぼれそうになる。
医師はあたしの包帯を丁寧に巻きながら、あたしの顔をのぞき込む。
耳の下まである少し長めの髪。ダークグリーンの髪だ。染めているのかもしれない。まつ毛が長くハーフみたいに鼻が高く色が白い。
「わたしは創(ソウ)という。なにか辛いことがあれば、訪ねてくるといい」
あたしは頷いた。
「リアルで辛い目に遭った者にとって、大奥は心落ち着ける所だ。励めば、そのうちお目見え以上になり、上様とともに愉しい時を過ごすことも出来るであろう」
あたし、その上様だったんですけど。
なんて言えるわけない。絶対に言えない。
女であることを隠し通さないといけないんだ。


