よく顔を見ることって、なかなか出来なかったから、今日が初めてだ。
少し日焼けした顔に、奥二重の瞳。笑うとたれ目が余計に強調される。健康そうな白い歯が唇から見える。八重歯がちらっと見えるのが、ちょっと可愛い、なんて思ってしまう。
恭平は、あたしの制止にしたがって指輪を入れ直そうとした。
「指に指輪の跡がついてる」
あ、本当だ。この指輪きついんだよね。ずっとはめていたから、すごい跡がついちゃったな。……恭介がひとりごちる。
恭平が鼻の頭を撫でながら照れているのを見ながら、あたしは、この人の優しさを好きだと感じていた。
姪っ子が居ないときには外せばいいのに、子どもとの約束を守って、ずっと右手に指輪をはめていたんだ……。和むなぁ。いいなぁ……。あたしもこんな人と一緒に居られるといいなぁ……。
「あの、店員さん?」
恭介の呼びかけに、あたしは我に返る。そう、あたしは彼にとって、一店員でしかありえない。まだ自己紹介さえしていない。
「え、えっと、あの、あたし、……結月あやなっていいます」
「結月さん」
「はい」
「あの……お仕事の邪魔をして、すみませんでした」
お仕事の邪魔?
いいえ、いいえ、そんな。お客様がそんな、気になさらなくても。
「お買い上げありがとうございます! また来てくださいね」
張り切って挨拶を再度するあたしの背後を恭介が小さく指で指し示す。
はっ。
振り返ってみてみると。
ミナミのおばちゃん……。


