「まいの大事な人なの、きょうちゃんは」
「こら、まい/// 分かっているから、これ、ママの買い物かごに入れてきて」
きょうちゃんに言われて、少女は、ゆでタコのパックを受け取る。少しあたしをじっと見つめていたけれど、身をひるがえし、短いフレアスカートを揺らしながら走っていく。
髪につけた白いリボンが、モンシロチョウみたいに、ひらひらと両耳の上で舞っている。
「可愛いんですけど、ませていまして、すみません」
「いえ、こちらこそ、お買い上げありがとうございました」
ゆでタコ、高いのに、気を遣わせてしまったかもしれない。きょうちゃんは、困ったように頭をしきりに掻いている。
「あの、まいちゃん、きっと大人になったら、きょうちゃんさんに真っ先に彼氏を紹介してくれますよ」
「だよな……。あ、きょうちゃんさん、は、変かな? 僕、松川恭介っていうんです、ほかでは『恭介』って呼ばれているんだけど……」
それで、「きょうちゃん」なんだ。右手の指輪をしきりに気にしている恭介は微笑ましい。
「コレ、なんか困るんだよね。誤解されるし」
「え?」
薬指から指輪を取って、恭介はジーンズのポケットに指輪を入れようとする。
「待って。……まいちゃんにチェックされますよ」
あたしは恭介の手の動きを止める。
「いいじゃないですか。変な虫がつかなくて」
「変な虫?……は、はは……、そんなの居ませんって。モテませんもん」
胸がきゅん、とする恭介の笑い顔。


