「あ、いいね、酢の物。僕は好きなんだけど、嫌いな人がいてね」
それって彼女ですか……? あたしが突っ込んで話を聞こうとした時。野菜コーナーの方から、こちらに向かって叫びながら走ってくる女の子。
「きょうちゃーん」
驚いているあたし、そっちのけで、彼女は男性の手にぶら下がる。もしかして、こちらは、お子さんですか???
頭をハンマーで殴られたことはないけれど、殴られたらこんな感じだろうか。ひとつにまとめた長い髪の生え際がジンジンするし、立ちくらみがする。
まさか……ご結婚されているとは。指輪は日本では左手の薬指だよ?
ちゃんと定位置にしてよ!!!
「まいちゃん」
目を白黒させていると彼は「まいちゃん」こと少女と手をつないで、あたしのほうを悪戯っぽく見た。
ああ、たれ目の奥二重。笑うと目の下に笑い皺。なんだか、ほんわかするイケメン顔。
「姪っ子なんです」
はぁ……、子持ちじゃなかった。陳列台に並んだ子持ちシシャモにちらりと目を走らせる。どいつもこいつも、子持ちじゃないか!! 突っ込むところだった……。
「この人だれ?」
おさげにした細い黒髪。くるくるした大きな瞳。額を出したスタイルの小さな顔。正真正銘、小さな子どもが、「きょうちゃん」なる彼を見上げている。
「店員さん」
「……」
あたし、店員ならではの作り笑いで返すしかない。


