イケメン大奥


昨日の大奥は眠っていた時間がなかったせいか、目いっぱい楽しんだ。そのせいか、いつもの鮮魚売り場の仕事が目新しい。

魚のビニールの上に特価価格のシールを貼ったり、商品を並べたり、お客さんに説明したり、そんな作業の繰り返しも新しい気持ちで取り組めた。


実際にお腹に入ったということなのか、大奥で食べた大量のご馳走、お菓子のため、昼を過ぎてもお腹は不思議とすかない。


お昼にデパ地下で買い物をするお客が出てきて、少し混む時間。

案の定、ミナミのおばちゃんが「お昼食べてくる」と出て行った。


あたしは遊び疲れの頭を職務に向けさせることにエネルギーを使っていて、そう気にならなかった。なぜなら刺身のパックを並べながら、大奥を去る時のレイのキス、温もりが、ふうっと湧き上がってきてしまうから。




ああ、妄想女一直線だよ……。



まんざらでもなくて、茹でたタコのパックを見ても、にやけてしまう。
重症かもしれない。


やけにニコニコいいえ、ニヤけているあたしを買い物客は避けているみたい。気持ち悪いよね、微笑みとにやけているのは違うから。ま、そのおかげで口うるさい客に絡まれなくて済んでいる。


昼時に魚を買って帰る客が引けそうになった時、陳列を整えていたら、何時もひとりで魚を買っていく青年が気づかない内に隣にいた。


「今日は何かいいの、入ってますか」

声をかけられるまで気付かなかったなんて、今までになかった。



あたしはリアルな憧れの人に陳列台のタコを指さして勧める。


「これなんて、いかがですか。タコとワカメの酢の物。ゆでたタコだから、 すぐに使っていただけますし」