イケメン大奥


「わたくしが大奥で申し上げた通りですよ。
あなたのような上様ばかりであれば、大奥は仕える者にとって過ごしやすくなる」


そんなに持ち上げないで……、
照れてしまう。

ただ出来そこないの命令ひとつ、しっかり出来ない上様なのに。


「とりあえず大奥へ戻り、レイ様に相談をしてみます。この承諾書をご覧になれば、心を動かして下さると、このハルめは期待します」



サラリーマンの朝の出勤途中といった格好のハルは、今度はドアから外へ出て行った。




あたしはそれを夢の続きのように眺めて、味噌汁と佃煮を出す。あ、冷凍しているご飯がひとつあって、助かった。

だけどお腹も胸もいっぱいで、朝ごはんの準備をするも、結局ほとんど食べられなかった。


飲みきった湯呑がこたつ机の上に一つあって、ハルの存在を示している。
今さっきまで、リアルな世界の住民ではない、外交官のような人がそこに座っていたんだ……。


あたしも熱いお茶を入れて、テレビの朝のニュースをぼんやり見る。


今朝は頭はきちんと覚めていて、ハルに打診された「ゴサイ」という役回りのことばかりが頭を駆け抜ける。


「ゴサイ」、響きがイマイチだな。もう少し良い名前の役名だったら、こんな変な気分にならないのかな。……ううん、あたしは、また大奥へ行けることに興奮して、それで頭の中がいっぱいなんだ。



リアルの仕事には影響がないということは立証済みだし。

パートの仕事がひとつ増えたくらいに考えればいいか。



自分にそう言い聞かせながら、リアルのデパ地下鮮魚店勤務のための準備をする。今回は身体が慣れたのか筋肉痛はなかったが、脳内に疲労を感じだ。

頭の中にぎゅうぎゅうと多くの事柄が詰め込まれて、

きしんでいる感じだった。