「レイ様に『結月あやな様をゴサイに任命してください』と進言してまいりますので、しばらくお時間をいただきたい」
湯呑をこたつ机に置いて、深々とハルは頭を下げた。
あたしも高い位置からだけれど、ベッドの上から丁寧にお願いする。
「一筆書いていただけませんか」
ハルがスーツの上着から取り出したのは、1通の承諾書。
おお、なんか現実的。あたしは言われるがままに、「ゴサイ」の任務を希望すること、任命を受ければ即承諾すること、名前を書いて押印をした。
あたしの名前と日付、押印を契約を交わしたビジネスマンのように確認しながら、ハルが説明を加える。
「上様のときよりも、おそらく大奥へ長い滞在になると思います。ゴサイとなってから、早くて1日で上様に御成りになり1日たてばこの世界に戻れますので、最低2日の間は、この世界に戻ってくることができません」
このハルの話には、考えさせられた。時間のゆがみの中に大奥はあるとはいえ、何日もこのリアル世界での日々を放棄しても、
こちらの世界に、支障はないのかな?
「上様になった後、さすがにこちらへ帰らずに『ゴサイ』のままでいるのは、出来ないよねぇ」
「そういうことは、今の段階では出来るかどうか分かりません。今のところ言えることは2、3日でこの6畳キッチンのお部屋に戻ることが出来るということです。今までどおり、こちらの世界のお仕事に支障をきたすことは、ございません」
あたしは、ごくっと唾を飲み込んだ。
「でも、ハルはどうしてここまでしてくれるの?」


