イケメン大奥


「前例はないのですよ」

湯呑の紅茶を飲んで苦そうに顔をしかめる、ダンディーなハル。しかめた顔の目尻に浮かぶ皺が渋い。


「しかし前例がないなら、作ってしまえばいい」

どこかの革新的な社長の言葉みたいですが。




「『ゴサイ』になれば、上様になりやすくなるだろうと言いたいのね」

「ええ、現在は中臈御年寄はキヨからレイに代わったばかりですし、御年寄たちにはゴサイが居ません」



「今まで、『ゴサイ』になりたい者はいなかったの?」

そんな美味しいポジションを知っていて、名乗り出た者が居ないとは思えない。ハルは鼻の頭を掻きながら、首を傾げた。


「大奥の記述にはありませんし……、そもそも1日しかいらっしゃらない上様が大奥のことを多く知ることは出来ませんので」

うん、1日は早い。1回目に大奥でスコーン食べて遊んで寝たら自宅に帰ってきていたあたしは実感としてよく分かる。



「前例はないのですが、やってみる価値はあります。調べてみるとゴサイが上様に名乗りを上げることについて、罰する規定はありませんでしたし」


秀才のハルが言うのだから、規則に違反しない、画期的な抜け道なのかもしれない。


「もし、ゴサイになりたいなら、あたしは何をすればいいの?」

「只今は次の上様がいらしている頃ですので、わたくしが表使として大奥に行き、中臈御年寄のレイ様にお伺いをたててみましょう。レイ様は、おそらく次の上様も気に入られるでしょうから」


そっか、そうなんだ……もう次の上様に、レイは仕えているんだ。


なんだか寂しい。きっとレイが冷静で慎重だし礼儀正しい?から、あの絶妙な辛辣さと優しさを使い分けて、次の上様にも気に入られるよね。