イケメン大奥



「話したいことってなに?」


上下紺のスーツ、紺のネクタイで現れたハルは、通勤途中のサラリーマンみたいだ。あたしが入れたインスタントの紅茶を湯呑で飲みながら、面白そうに部屋を眺める。


「6畳間にキッチン、風呂トイレですか」

「ひとり暮らしだから。あたしの給料では、大奥みたいな御殿はムリ」

「慎み深いお暮らしなのですね」


仕方ないじゃん……、こんなもんでしょう?この世界では。


ハルはこたつ机に湯呑を置いて、パジャマを着てベッドの上に座っているあたしの前に膝をつめる。狭い部屋だから、充分に近い距離にはいるのだけれど、彼なりに話したいことは重大なことらしい。


「単刀直入に言います。結月あやな様、あなたに出来る限り大奥にいらしていただきたいのです」


はぁ…そうですか、なんて言えますか!?


「唯一、大奥に入ることが出来る女性は一日に1人だけでしょ。しかも、携帯に届く広告メールのクリックを一番早くした女性。そんなの、運が良くなければ、一番早くになんか、押せないよ」


もしくは、キヨのように押すタイミングをあたしに教えてくれるか。

だけど上様がいるのに、ほかの女性と心を通じたから罪になるし、


他に大奥への近道があるのか、あたしには分からない。


「大奥へまた行ける方法があるとしたら、あやな様は行かれたいですか?」


「はい、もちろん」


あたし、即答。まだまだ大奥の者たちと話したいことがあるし、楽しい時間を過ごして美味しい物を食べたいし。もちろん、大奥の役に立つことを上様としてやってみたいし。


『あなたは真にわかりやすい心の持ち主ですね』


頭の奥に、ハルの声が届く。