イケメン大奥



スーツ姿のレイを毛布の中から見る。身体をすっぽり毛布にくるんでいるあたしに、レイが近づいてくる。


「目に映った記憶はいいよね」


「なんのことですか?」


「瞳に焼き付けておこうと思って……レイのこと//」


照れながら、もぐもぐと毛布の中でしゃべっていたら、

レイの顔が近づいてきて、あたしは思わず目を閉じる。



こつ、と小さな額どおしが触れ合う音がして目を開けるとレイの短いグレーの髪や瞳がもうすぐそこにあった。


「よく見ておいてください」


近いよう……、キス出来ちゃうくらい近い。


「キスいたしましょうか」

あたしの心の声が聞こえたみたい?


「上様は、キスを求めているような顔をしていらっしゃるので」

それは、レイ、あなたの独断でしょう。


ま、このあと数センチで唇が重なるという状況だったら、キスされるのかな、なんて思わない女子はいないと思う。


あたしは試すように瞳を閉じる。さぁ、レイはどうするの?


「男性経験があまりにも不足されているようですね」

そんな皮肉と共に。



chu!


あたしの額に触れるか触れないかの微妙な唇の感触。小さなキス。そうして、鼻筋を通り、あたしの唇に触れたのは、レイの指先だった。


「ではお召し物は全部回収し、確認いたしました。……ご出発の時が近づいてまいりました」


レイの声が、ほんの少し慈しむような柔らかさを含んだように聞こえるのは、あたしの勘違い?それとも、期待から?

レイの掌をぎゅうっと握る。その手首の赤い傷跡をレイは優しく撫でてくれた。


「ありがとう……レイ」

最後にお礼の言葉がレイに届いたかどうか、分からない。次第に視野が狭くなり、目の前が真っ暗になり、あたしは背後から強い力で引っ張られた。


レイがあたしの傍らで、広がった長い髪を優しい瞳で見つめている、その姿が最後に目の裏に焼付く。


そうして、

意識が戻ったとき、あたしはリアルな自分のベッドに横たわっていた。


腕の赤い痣は、全く何事もなかったように消えて、痛みもなかった。