「じゃあ、弾くよ」

「うん」


ピアノをなでるように弾く手が好きだ。

小気味良くリズムを取る足も。

常に真剣な横顔も大好き。

全部全部大好き。


一樹のピアノは、
涼介との苦しかった思い出がどんどん溶け出していくようで、
とても心地よかった。


綺麗な涙がこぼれた。

「また泣いてる」


弾き終わって蓋を閉じた一樹は言った。

「だってすごいんだもん」

「ありがと。オレはピアノに感謝しなくちゃな」


「へ? なんで?」

「美雨と出会えたのはピアノのおかげだからね」

「…そうだね」

恥ずかしくて顔が火照る。

さりげなく目をそらす。

そんなあたしに一樹は優しく微笑む。

「美雨も弾いてみる?」