ある日、ふらふらとあたしは大きな桜の樹のある丘に来ていた。


「大きい…」


あまり他人に心を開かなかった昔のあたしが、
はじめて心を開いたのが桜の樹と、そこでいつも絵を描いていた人だった。


彼は、いつも空の絵を描いていた。

『空って、いつも違う顔なんだよ』

彼はそう言っていた。

「大きいよね?」

彼はあたしに微笑み返した。


年の割にはあどけない、無邪気な笑顔にあたしは見とれた。

だから毎日、そこに行くようになった。


「また来たんだね、美雨ちゃん」

「うん! 桜の樹と、祐樹君に会いたいから」

あたしはすっかり心を開いて、
いつも祐樹君のそばに座るようになっていた。

「僕は二番目だ」

そう言って笑う。

あたしは必死になって弁解した。

「祐樹君が一番だよ! あ…でも。桜の樹も一番かも」


だけど、弁解にならなかった。

そんなバカなあたしに祐樹君はいつも大笑いした。

桜の樹も、まるでおなかをゆすって豪快に笑うように、
花や、葉や、枝々を揺らした。

そんな、いつもの楽しくて、くすぐったくて、甘い日常。

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しかし、それは唐突に終わりを告げた。